導入事例



埼玉県公立小学校教諭 Aさん(女性/教師歴:約30年)

Type: 職員室のチームビルディング/クラスファシリテーション
実施時期: 2008年5月~2009年2月(月に1度の職員研修×4回と週に1度の学校訪問)
対象: 小学校教職員
実施内容: 対話を中心としたチームビルディング

チームビルディングの大きな特徴は、どんな形式の組織であれ柔軟に対応できる点にある。学校教育の現場においても、職員室とクラスの双方で実施すれば、二つの変化の相互作用がより大きな効果をもたらすに違いない。埼玉県のある公立小学校では、まず職員研修に採り入れたことで多くの職員がチームビルディングの効果を実感。その後、各クラスでも積極的に用いられるようになった。同校の女性教諭に、現在までの自身と学校の変化について聞いた。

雑務に忙殺される毎日のなかで、 「行きづまり感」が日増しに強くなり……。


 長く教師をしていますが、この仕事は、経験を積めば積むほど行きづまることも多くなるものです。クラスの“輪”ができる、子どもたちが一つにまとまる……そんな状態をだんだん作りづらくなってくるんですね。

 最初の頃は、若さがあれば子どもはついてくる。若さがなくなったら、次は技術で解決しようとします。ただ、技術って磨くことはできても、それだけでクラスをまとめるのは難しいんです。子どもたちをもっと強く惹きつける“何か”があるんじゃないかと、ずっと考えていました。

 その一方で、クラス担任として、次から次へと湧いてくる膨大な量の仕事に追いまくられる毎日。とりたてて問題なく、平穏無事に過ぎてくれれば……という気持ちが心のどこかにあったのも事実です。


分裂、対立していた子どもたちが、 あっという間に一つに!


 チームビルディングを初めて知ったのは、この学校に赴任した最初の年の夏休み、宿泊学習を実施したときのことでした。日頃からこうしたことに熱心な同僚が中心になって取り組みを進めていたんです。お恥ずかしい話、1学期にはクラスをうまくまとめきれず、バラバラな状況のなかで宿泊学習の日を迎えていました。

 当時はチームビルディングについて何も知らなかったので、子どもたちを動かすのはファシリテーターの方にお任せして、そばで様子を見ていました。教師根性で子どもについ口出ししてしまって、ファシリテーターの方に注意されたりしながら(笑)。驚いたのは、少しずつですが、分裂、対立していた子どもたちが動き出して、男女の区別なく自発的に一つの輪になっていったことです。子どもが本来持っている力を実感した瞬間でした。「これはすごい。絶対に学ばなければ!」、そう思って、体験学習の研修に参加するなどしながら自主的に勉強を始めました。


自分の“王国”にこもっていた教師たちが、 少しずつ、手をつなぎ始めた。


 している株式会社のファシリテーターのアキラさんやクニさんと出会ったのは、次の年、同僚に誘われて、チームビルディングを採り入れた校内の職員研修の企画に携わったときのことです。その研修では、子どもたちのときと同様に、教師に対しても新たな発見がありました。「○○さん、すごくいいこと言うな」「この先生ってこんな素敵なところがあるんだ」というような、今まで知らなかった同僚の魅力や強みを、面白いくらいにたくさん見つけたんです。

 教師って「一国一城の主」みたいなところがあるから、ほかの教師のやっていることにはあまり口を出し合わない。でも、この研修で同僚への見方が変わって、「詩のことならこの先生に聞いてみよう」「体育だったら○○先生よね」などと自然に思えるようになりました。

 教師はいろいろな“引き出し”を持っていたほうがいいということは、頭ではわかっているけれど、自分一人で引き出しを増やしていくのはなかなか難しい。引き出しのタネがこんなに近くにあったというのは、新鮮な驚きでした。今までは自分の「王国」にこもっていて、周りの人の良さに気付かなかっただけかもしれません。

 ほかの職員も同じように感じたようで、最近では「いま、私、クラスでこんなことやっているんだけど、面白いからやってみない?」「こんなことで困ってるんだけど、どうしたらいいと思う?」なんて会話がよく出てくるようになりました。そうやって教師同士がどんどん手をつないで、それが結果的に一つの線になっていくというのは、本当に面白い体験でしたね。今までとはまったく違う形の研修に、最初は疑い半分だった同僚の先生方も、大きな手ごたえを感じていたようです。


教師全員が子ども全員をみることで、 “私の生徒”から“私たちの生徒”へ。


 職員室の雰囲気が変わるにつれて、同僚の先生方に自分のクラスの様子について教えてもらえることも増えました。今年、私は3年生のクラスを受け持っているのですが、「3年生よくなったね」「今日は3年1組の子がよく掃除をしていたよ」などと言ってもらえるのはとてもうれしいことです。子どもたちも、私が褒めても「ふーん」という表情なのに、「○○先生が褒めていたよ」と言うと、すごく喜ぶんですね。

 子どもたちにはいつも「みんなはいろいろな先生に見られているし、助けられているんだよ」と伝えるようにしています。私がいないところでも「ここはこうしなくちゃ」という意識を働かせてほしいから。でもそのためには、同僚の先生方の手助けが絶対に必要です。教師同士のコミュニケーションが活発になったことで、「教師全員で子ども全員をみる」という意識がより強くなり、子どもたちにもいい影響を与えているように思います。


引っ込み思案な子が指揮者に立候補。 子どもたちにも変化の兆しが……。


 去年はクニさんの協力も得て、受け持っていた4年生のクラスにチームビルディングの手法を採り入れてみました。子どもたちの変化をもっとも強く感じたのは、「市内音楽会」の際の取り組みです。市内音楽会というのは、各校の代表として、市内の小学校の4年生が集まって開く音楽会です。

 たとえば、とても頑張り屋さんだけど、歌があまり得意ではなく、みんなで歌うとどうしても音程が外れて目立ってしまう子がいたんです。でも、一生懸命やっているから、みんなも悪くは言えない。その子が傷つかないように声を歌にどう溶け込ませるか、実行委員が集まって一生懸命考えているのを見たときには、とても頼もしく思えました。

 いつもはあまり自分に自信が持てなくて、積極的にものを言わない子が、「僕、やります!」と実行委員に立候補したのもうれしかったですね。彼はその後、指揮者にも立候補したんです。チームビルディングは、子ども自身が変わるきっかけにもなるんですね。


“成功体験”の後に子どもたちが見せてくれた 話し合いの見事さに脱帽!


 本番は成功し、みんなで大きな達成感を味わうことができました。でもなにより見事だったのは、市内音楽会の後に行なった、校内の合唱集会についての話し合いでした。

 練習期間が4日しかないなかで、クラスで発表する歌をどうするか。市内音楽会で発表した歌にするという選択肢もあったのですが、判断は子どもたちに委ねました。すると、「練習時間が少ないから無理だと思う」「いや、市内音楽会であれだけできたんだから、僕たちはできるはずだ」……いつもは思ったことを口に出さないような子まで、みんな発言していったんです。黙っている子には、周りの子が「○○ちゃんはどう思う?」「言っていいんだよ」と優しく声を掛けていました。話し合いの結果、みんなの総意で、「やっぱり新しい歌に挑戦しよう」ということになりました。

 合唱集会で発表した歌は、時間が足りない分、市内音楽会とは比べものにならないくらい下手なものでしたが、そこに至るまでのプロセスが非常に感動的で、担任としてはそれだけで十分満足でした。


「他校の先生方にも、 思わず自慢したくなっちゃいます(笑)」


 チームビルディングのよいところは、職員室でもクラスでも、どんな場面でも使えること。今年受け持っている3年生のクラスで試しても、やっぱり効果がある。同僚たちも去年とは違う学年で積極的に試しているようです。

 組織のなかでは、どうしても発言する人が少数に限られてしまい、力を持った人、積極的な人、声の大きい人などの意見が尊重されてしまいがちです。チームビルディングを採り入れると、一人ひとりの声が聞こえて、みんなが生き生きとしてくる。それは見ていて本当に楽しいものですね。これからもいろいろな場所で広めていきたいと思っています。つい先日も、他校の先生方との打ちあわせのときに、最近知った新しい手法のことを自慢してきちゃったんですよ(笑)。


この事例のポイント


【 BEFORE 】
-職員室-
・  教師歴が長くなればなるほど、子どもたちとの年齢の差が開き、クラスを一つにまとめることが難しくなっていた。
・  膨大な量の仕事に忙殺され、新たな知識やノウハウの獲得がおろそかになりがちだった。
・  ほかの教師、クラスが取り組んでいることについて、興味はあったが、なかなか聞けなかった。
・  「できない」「悪い」、犯人探しをしてしまい、お互い足を引っ張っていた。
-クラス-
・  積極的な子・自分の考えをはっきり言える子・声の大きな子の意見がそのまま通ってしまいがちだった。
・  男子と女子、積極的な子と消極的な子、など、クラスがが複数のグループに分かれてしまい、相互のコミュニケーションがなかなか取れなかった。

【 AFTER 】
-職員室-
・  今まで気付かなかった同僚教師の魅力や強みを次々に発見した。
・  自分のクラスの現状について、同僚に積極的に相談するようになった。
・  同僚が取り組んでいることについて興味を持つようになった。
・  「自分にできることは何だろう」と考え、建設的な話ができるようになった。
-クラス-
・  仲間に対する思いやりが持てるようになった。
・  一人ひとりに積極性が出てきた。
・  クラスにおける自分の役割について考え、行動できるようになった。
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